デザインと耐震にこだわる静岡県の建築事務所「相場ヒロユキ建築事務所」です。

語らいが生まれる、ログハウスの税理士事務所。

「完成当初は喫茶店や美容院と間違えて入ってくる人が結構いました。」
と、オーナーの加藤様がおっしゃるのも納得。
なんとこのログハウス、税理士事務所なのである。三角屋根とシックなダークブラウンの外装は、つい立ち寄ってみたくなるようなぬくもりに溢れている。ログハウスとは一般的に「ログ(Log)=丸太」を水平に組み上げて建てられた家のことを指す。この事務所は角ログと呼ばれる板状に製材された木を使用しており、洗練されたデザインとメンテナンスフリーの機能性を併せ持っているという。竣工から15年目の冬、お話を聞きに伺った。

(取材・撮影・文/エンジェルデザイン)

【数字 < 話】に重点を置いた税理士事務所。

一般的に税理士事務所というと銀行のような堅いイメージを持たれる方も多いだろう。ところがこちらの加藤恵司税理士事務所はまるで変わっている。丸ごと木で作り上げた建物、ステンドグラスがはめ込まれたドア、温かな光を放つ電灯、そして飴色のフローリングの上では愛犬のゴールデンレトリバー「ゆずり」が心地よさそうにまどろんでいる。
平成8年に建てられた、所長である加藤様の思いが随所に込もる事務所。「訪れる人たちにゆっくりくつろいでほしい。気負わず気軽に話ができる税理士事務所を作りたい。」加藤様が描くそんな夢に相場ヒロユキも賛同し、オーナーと建築家、二人三脚の家造りが始まった。

丸太ではなく、角ログを使うことで機能性もアップ。

「事務所の建設を考えていたとき時代はまさに円安でした。輸入材がリーズナブルに日本に入ってくるようになり、これはログハウスを建てるチャンスだと思ったんです。」 もともとアウトドアが趣味という加藤様。かねてから憧れだったログハウスがにわかに現実のものとなった。
まずはログハウスの命とも言える木材選びが始まった。加藤様は当初、フィンランドでカットされた木材を輸入することを検討されていたが、相場ヒロユキは地元の木材業者を通じてカナダから原木を仕入れることを提案。あらかじめ海外で加工された木材は、刻みに間違いがあったり運搬される途中で割れてしまうなどのトラブルが起こり得るため、大事をとっての判断だった。

カナダから到着したのは大きなレッドシダーの原木。それをまず板状に製材し、三枚一組でひとつのブロックにする。このとき木目を上下左右逆になるように組み替えることで、経年による木の「反り」を抑える効果が生まれる。さらにこのブロックのほぞを組み合わせて作り上げられるログハウスは安定感があり、新築当時の状態を長く維持できるという。
「一般的にログハウスはメンテナンスが大変だと言われますが、この事務所は本当に手がかかりません。お手入れらしいことと言えば外側の木を腐らせないよう5年に一度のスパンで外装を塗り直すことくらい。角ログを使っているので平らな面は掃除も楽ですし、埃もたまりません。壁紙を張り替える必要もなく、壁の色合いが年月とともに微妙に変わっていく過程も面白いですよ。」 加藤様が語られた。

どんな家具を置いてもしっくり馴染む、木の包容力。

当然のことながら事務所内にはたくさんの事務機器が置かれている。4名の従業員が使うデスクにパソコンやプリンタ、膨大な資料を納めるスチール棚、打ち合わせ用のテーブル等々。不思議なことにログハウス内では素材や形が違うもの同士がしっくりと調和し、落ち着いた印象になる。
「包容力あるよね、木は何でも受け入れてくれる。」と相場が笑う。

事務所の1階は2つの部屋が間口を大きく開けたように続いているため、まるでひとつの広いフロアのようだ。「できるだけ開放的な空間にしたい」という加藤様のご要望を受け、相場が綿密に構造計算を行い設計した。ログハウスは天井、壁、床まですべて木を組み合わせて作っていくため「柱」というものが存在しない。それも空間を広く使う上での大きなメリットである。
天井に取り付けられた蛍光灯は一般的な白色ではなく、温かみのある電球色を採用した。仕事場としての機能は損なわず、働く人も訪れる人もどこかホッとくつろげる空間づくりは、こういった細部へのこだわりによって実現している。

「工事の過程で“ここ、もっと広くしよう”ってことになって(笑)。」

加藤さんの一番のお気に入りはログハウスの2階。ご自身の書斎があるとっておきの空間だ。
ここはちょうど三角屋根のすぐ下にあたり、もともと広さが限定されている。建物の2階を外から眺めるとテラスデッキが飾りに見えるほど小さな空間に思える。しかし実際は、ゆったりとした書斎のほかにもう一部屋ミーティングルームがあり、意外にも広々とした印象だ。
実は着工前、ここは小さな屋根裏部屋になる予定だった。
「当初2階については特別な構想もなく、正直なところさほど気に留めていなかったんです。ところが、工事が始まり次第にできあがってくる過程を見て、“ここ、すごく良いじゃん!”ってことになって。どうせならもっと広くして欲しいと僕がわがままを言ったんです。相場さんは2階全体の設計はもちろん、階段の構造計算もいちからやり直してくれて。本当に大変だったと思いますよ。」
書斎に飾られたアンティークの家具や時計、お子さんが描いたと思われる絵などを眺めていると、ここで自分だけの時間を楽しむ加藤様の姿が目に浮かんだ。

「相場さんに頼まなければ、このログハウスはできあがらなかった。」

ログハウスは市街地等での建築に関して、構造的な部分で法的な規制があるため建てるのも維持するのも大変というイメージがある。加藤様にログハウスを建てる上で苦労したエピソードはないか尋ねてみると、「特にないですよ」との返答。
「相場さんに頼んで本当に良かったと思っているんです。他の人に頼んでいたらこうはならなかったでしょう。設計から工事まで、本当に一生懸命にやってくれました。感謝しています。」
ふと窓の外に目をやると雨が落ちてきたようだ。部屋の中は温かく穏やかな時間が流れ、ついつい長居をしてしまいそうだ。

(取材・撮影・文/エンジェルデザイン)